《短篇》
『家グモ』
小山田浩子(著)
(『文學界』2018年1月号に掲載)
家グモというのは、住み着いた家の害虫を食べてくれるので、絶対に殺してはいけないという話を、うちの母親もよくしていました。
けれど、クモという生き物は、あまり気持ちのいい見た目ではありませんし、クモ嫌いな人間にとっては、いくら害虫を食べてくれたって、家の中、それも暗がりの奥からぬっと現れたりすると、やはりぞっとするでしょう。
このクモの持つ一種特別な二面性(良き生き物としての顔と、不気味さをまとったグロテスクな顔と)が、育児世帯とその周辺にいる人たちの身近を覆う不穏な気配と、通じているようにも感じられました。
本作では、育児ということが、一つのテーマになっていただろうと思います。
子供は親にとっても、また社会にとっても”宝”であり、幸福の象徴でもあると思うのですが、一方で子供嫌いな大人も中にはいますし、子育てをする家庭に、現在の社会の情況はかなり厳しいものであるという現実があるのも実情です。そういう社会環境とはまったく関係なく、育児ノイローゼとかいう問題も、存在しているでしょう。
子供を育てるということの幸福と、反面横たわる難しさ、心もとなさ、グロテスクさが、作品のなかで絡まりあっていて、なんだか必死に手探りでもがいているという印象を受けました。
『穴』で芥川賞を受賞された小山田浩子さんですが、出産と育児に纏わる自らの体験が、色濃く投影されているようであり、その辺を興味深く読ませていただきました。