文芸 2017年 11 月号 [雑誌]

『水面』

町屋良平(著)

(『文藝』2017年冬号に掲載)

 

 

 

『青が破れる』で、第53回文藝賞を受賞した町屋良平さんの、受賞第一作です。

主人公の「ぼく」(岳文)の、高校時代から24歳までの青春が描かれています。

3人の女性に情けないフラれ方をし、そのうち二人からは水の中に突き落とされるという、不遇ぶり。

それも自らが招き入れた不遇であると言わざるを得ないのですが、物語の途中(たぶん、インドに親友の照雪と旅行に出かけたあたり)から、どうにも情けなさの付き纏う内気でふがいない主人公の青年が、なぜか急に好きになってきました。

最後には、破れかぶれな状態の中で、何かを悟ったかのような主人公ですが、その行く手にはやはり彼をして危なげな場所に向かわせる不穏な力の存在を感じてしまいます。

どうも神とか宇宙とかそういう、人知を超えた大きなものの存在が意識されているようです。

そして、そこにある不穏さ、危なさを象徴しているのが、いつも彼を呑み込んでしまう水(海や川やプール)であり、”水面”はその入り口、あるいは、なんらかの”境界”だという気がします。

情けない展開続きだったのに、なぜか読後には妙な清々しさが残りました。

 

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