群像 2017年 11 月号 [雑誌]

『母とユニクロ』

石田千(著)

(『群像』2017年11月号に掲載)

 

 

 

84歳の父親と77歳の母親の住む東北の実家に帰省した、50代で独身の娘。

母親と娘は、父親を家に残して、地元のユニクロに出かける。

 

特に事件というべき出来事は起こらずに、我が国のどこの町にも普通にいそうな親子の、ただの買い物風景です。

けれど、何気ない日常的な行動を描写しているだけでも、その人物の人柄やさらにその奥にある背景の広がりにまで届いてしまう、作者の筆致は、魅力的です。

年をとっていても意外と元気で社交的に生きている母親の行動を、普段は東京で一人暮らしをする娘の眼差しが追いかけていきます。

どちらかというと慎重派であるらしい娘の視線は実に繊細で、田舎暮らしに溶け込んだ母親の生態を正確に描写し、50歳になっても独身の自分を気遣う母親の、何気ない優しさまで捉えていきます。

独身で、50代で、高齢の両親を持つ女性の感覚は、こんなにもさばさばと明るく、大らかなんだという実感。もちろん、一抹の哀愁というか寂しさはありますが、それはこの年代の人たちに限ったものではないはずです。

言葉のセンスの良さも、光る作品でした。

例えば、一番好きになった一文で、”郷にいっては、郷のユニクロがある”というのがあるのですが、これはかなりツボでした。名言みたいですよね(笑)

また、パリコレで活躍するデザイナーと、東北弁を話す洋裁家である母親が、ユニクロを介して繋がってしまうところなんかもユニーク。

読み終わってしまうことがちょっと寂しくて、そんな風に感じるのは、実は最近ではだいぶ珍しい体験でした。