『キュー』
上田岳弘(著)
(『新潮』2017年10月号掲載)
上田岳弘さんの連載小説『キュー』を、『新潮』2017年10月号掲載分のみ、とりあえず読んでみた感想です。(※以下ネタバレあり)
診療内科医である「僕」は、仕事の繋がりで参加した忘年会で、薬品メーカーに勤める女(東藤さん)と親しくなり、そのまま関係を持ちます。彼女は、高校時代に強くひかれていた少女と同じ、恭子という名前です。
「私の中には第二次世界大戦が入っているの」
と、かつて主張していた高校時代の恭子は、自分は広島に原子爆弾が投下された時に犠牲者となった椚節子という少女の生まれ変わりだ、と「僕」に語っていました。
「僕」は、恭子の語る原子爆弾に纏わる話に興味をひかれ、次第に彼女自身にもひかれていきます。が、ある時、前触れもなく恭子は高校を辞め、消息を絶ってしまいます。
二十年以上経って、奇しくも同じ名前の女性と巡り合ったことで、過去の記憶が「僕」に蘇ってきます。
物語の視点は、主人公の「僕」だけでなく、恭子と思われる人物(「私」)の視点や、まだその正体すら把握できない謎めいた人物の視点なども入り、かなりハードな様相を呈していて、これからどのような展開になるのかも、全く先が見えない印象です。
『太陽』や『惑星』、『私の恋人』などの過去作品とも通じる波動を感じます。
この先の展開が非常に楽しみです。
ちなみに本作は、「Yahoo!JAPAN」と共同で、スマートフォン向けのブラウザでも同時掲載されるという、新しい方式をとっています。(こちらは、週2回更新予定だそうですが)