文學界2017年9月号

芥川賞受賞第一作

『廃屋の眺め』

沼田真佑(著)

(『文學界』 2017年9月号掲載)

 

 

『影裏』で、文學界新人賞及び芥川賞を受賞された沼田真佑さんの、受賞後第一作目となる作品です。

短いですが、もはや「文豪」という気配さえ感じさせる、落ち着いた書きっぷりで、驚きました。

もうじき50歳になろうとしている、独身のフリーターを語りに、私小説的な作風で仕上げています。

男と女が夫婦になる、ということの奇異をテーマに書いていますが、友人の体験の伝聞や、主人公自らの体験として挿入される話の一つ一つに、何とも知れない味わいと、面白み(というのが適当でないのならば、怖さ)があります。

何気ない流れから、突然突き放されるように急転する幾つかの場面は、その奥にある物語を掻き立てられてしまい、短編でも読み応えのある一作でした。

題名と本作の内容とが、すぐには繋がってこなかったのですが、何かしら意味深である気配の先にこの題名があって、さらなる空想が広がります。