LIFE

第36回野間文芸新人賞受賞作品

『LIFE』

松波太郎(著)

(講談社)

 

 

 「365日”だらだら且つぶらぶら”する王国」の国王であると妄想するニート男、猫木豊、31歳。

同棲中の恋人(宝田)から、妊娠を告げられた猫木は、”だらだら且つぶらぶら”生活をやめて、アルバイトをはじめ、宝田の妊娠・出産に自らも向き合う。

予定日より早く生まれてきた子供に、先天的な障害があることを、医者に告げられ……。

本作は、第150回芥川龍之介賞の候補作にも選ばれました。

猫木という主人公は、絵に描いたようなダメ男ですが、恋人の妊娠をきっかけに、真面目に生きようとしはじめます。

31歳にもなって、「雇用保険」という単語すら知らないという設定は、妄想の国(”だらだら且つぶらぶら”する王国)以上にリアリティがない気がしましたが、そもそも猫木という男は、はじめからリアリティのない危うさの塊のような存在として現れたので、そこは深く考えないことにして、読み進めました。

生まれてくる子供に、先天的な障害(ダウン症)があると判明した辺りから、作品の印象がだいぶ変わりました。

深刻な状況に進みつつある現実に対して、猫木の態度はあくまでも冒頭からのリズムを崩しておらず、むしろはじめからこの世界の残酷さや不条理を知りぬいている人間の、哀愁のようなものを感じました。

一番驚きだったのは、「雇用保険」という単語すら知らなかった猫木が、「原発問題」に対してかなり辛辣なる識見を持っていて、それをぶちまける、という一場でした。

ここは、彼の妄想の世界と現実が、一瞬だけ同じ地平で繋がったかのような場面だったので、いきなり異物が投入されたかのような印象を持ちました。

この原発問題と彼の”FIFE”との繋がりは、あまり展開として追及されていませんが、現実社会と猫木との関係を脅かし続けた一因だったのかな……?と想像します。

最後は、息子に自らの妄想の王国を委ねることで、フェードアウトするかの如く終わりましたが、本当の”LIFE”は、これからなはずです。