ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

第6回日本ホラー小説大賞受賞作品

/第13回山本周五郎賞受賞作品

『ぼっけえ、きょうてえ』

 岩井志麻子(著)

 (角川書店)

 

舞台は岡山の遊郭。

一人の女郎が、客を相手にはじめた、身の上話。

女郎の産みの母親は、間引き専門の産婆で、飢饉の続く村で、望まれぬ赤ん坊を殺すのが仕事だった。

女郎は、自らも産まれてすぐに川に捨てられるが生きのび、後に母親について間引きの手伝いをする。

地獄のような出来事を、淡々と岡山弁で語る女。

女郎には、実は恐ろしい秘密があった。

作者の岩井志麻子さんは、本作で日本ホラー小説大賞を受賞し、本作を含む全四篇からなる短篇集で、山本周五郎賞を受賞しています。

女郎の一人称語りで紡がれる岡山弁の文体は、どこか怪しく、また妙にけなげな印象さえも抱かせて、不思議な魅力があります。

語り手である女郎は、母親が間引き専門の産婆だったことから、自らも赤子殺しに関わっていきます。

多くの命が生まれ、生まれると同時に(あるいは生まれるよりも先に)奪われる凄惨な現場は、幼心に地獄と映ります。そこに居合わせる自分自身も、地獄の鬼の一人です。

ぼっけえ、きょうてえ”とは、岡山地方の方言で、”とても、怖い”という意味だそうです。

鄙びた農村の貧しい暮らしのなかで、日常的に繰り返される「間引き」の絵図は確かに恐ろしく、感情の見えにくい女の語り口で伝えられるそれは、薄気味の悪さと後味の悪さ満点です。

読んでいるうち、「地獄」というものが、古来から人間社会と密接な距離にあったのだと、気づかされた気がします。