織田作之助賞受賞作品/
芸術選奨門科学大臣新人賞受賞作品
『その街の今は』
柴崎友香(著)
(新潮社)
主人公の「わたし」(歌ちゃん)は、勤めていた会社が倒産し、カフェでバイトしている28歳の女子。
大阪に住んでいる「わたし」は、古い街の写真を集めていて、それを見るのが趣味である。 はじめて参加した合コン(最低最悪)の帰りに出会った、年下の青年(良太郎)と親しくなる。 二人は、古い街並みの写真を一緒に眺めたり、語り合ったりして、友達以上恋人未満の関係になりつつある。 一方で「わたし」は、以前付き合っていた妻子持ちの男(鷺沼)への想いを、捨てきれずにいた。 |
20代後半女子の、交友関係や恋愛、仕事といった日常が、生き生きと描かれていて、リアルでした。
まだまだ若いけれど、それなりに酸い苦いをかみ分けてきた世代の、一見浮ついているようで、実はしっかりと地に足を付けて歩いている感じは、頼もしく、また健気でもあります。
「わたし」という主人公が、一人称の視点から世界(街)を俯瞰している感じも、面白かったです。
刻々と姿を変えながら、やはりちゃんと生きている「街」の風景の一部として、観察者である「わたし」も当然そこに組み込まれているのです。それを、鳥のように上空から俯瞰している感覚。
「写真」という、時間軸のある一点の一瞬を切り抜いた一枚一枚と対峙する時、過去の時代の人々(身近でいうと、若き日の両親)とも、「街」という場所を通じて繋がっていきます。
これはなんとも不思議な、時空間の超越的錯覚を呼び覚まします。
どこかSFチックでもあり、どこか懐かしい感じ。
なんとも言い難いこの味わいはなんだろう、と、読後もしばし余韻に浸っていました。