夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

『夜は短し歩けよ乙女』

森見登美彦(著)

(角川文庫)

 

(第一章のあらすじ)

大学のクラブの後輩である「彼女」(「黒髪の乙女」)に、ひそかに想いを寄せている「私」。

ある夜、クラブのOBが結婚することになり、内輪で開かれた祝いの会に参加すると、「彼女」もその席にいた。

話しかける機会もないままに宴は終わり、二次会に流れ込む一団から一人歩き去る「彼女」の姿をみとめる。

「私」は、その後を追いかけて、夜の木屋町から先斗町界隈までを歩き渡る。

そして、とんでもなく可笑しな人たちや、可笑しな出来事に巻き込まれていく……。

森見登美彦さんは、2003年に『太陽の塔』日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビューした作家で、本作は2007年に山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞では2位に選ばれています。

「黒髪の乙女」という奔放で可愛らしい印象である「後輩」の女子大生と、その彼女に恋をする青年「先輩」という二人の人物が、交互に一人称(「私」)の語りになって登場し、物語が展開していきます。

今時の若者の恋愛を描いた青春ストーリーなのに、文体は極めて古風だし、登場人物たちの会話や仕草やその造形も、どこか古典文学の世界から踊り出してきたような面妖さがあります。

京都を舞台にしていて(おそらくは彼らが通っているのも京都大学なのでしょう)、この「京都」という土地だけが持つ情緒と怪しげな古めかしさが、作品に一層の趣を与えていると思います。

けれど、なんといっても、この作品の最大の魅力は、底なしの「馬鹿々々しさ」と「純真さ」なのだと思います。

私はこの作品を読んでいて、脇で出てくるたくさんの一風変わった登場人物たちの、明るく爽やかに毒のある感じが気になりました。

どうしても彼らの印象が、高橋留美子さんの漫画『うる星やつら』に出てくるキャラクターたちと、通じているように思えてしかたなかったのです。

これは、本来は漫画が持っているような戯画的な面白さを、巧みな日本語のマジックで小説化(言語化)してしまっているということではないでしょうか。(これを意図してやったのだとしたら、凄いことだと思います)

それはさておき、これはギャップと対比の面白さだとも感じました。

ものすごくふざけた展開が続き、リアルな世界の常識を飛び越えた「あり得ない」(物理的に)事象も平然と巻き起こしておきながらも、文章は一貫して美しいのです。(前述した通り古風で慎み深く、情緒に富んでいます)

このあたりのバランス(もしくは見せ方)が、とてもいいのだと思います。

脇役的に登場してくる人物には名前があるのに、主人公二人(「黒髪の乙女」と「先輩」)には、名前がない、というのも面白いと思いました。

映画も、ぜひ観てみたいです(‘ω’)