『夜行』
森見登美彦著
(2017年本屋大賞ノミネート作品)
(小学館)
「鞍馬の火祭」を見物するために、元英会話スクールの仲間たち――僕(大橋)、武田、中井、藤村、田辺の5人――が、10年ぶりに鞍馬に集結した。
僕らの心には、10年前、同じように集まって「鞍馬の火祭」に訪れた時の記憶があった。 10年前のあの夜、もう一人の仲間だった「長谷川さん」が、突然姿を消したのだ。 今回の集まりは、僕が呼びかけたものだったが、理由などは特になかった。ただ、何となく彼女(長谷川さん)に呼ばれたのではないか。そんなことを考えていた時、僕はある画廊のことを思い出していた。 その画廊へ、長谷川さんにそっくりの女性が入っていく姿を見た気がしたのだ。そこで、ショーウィンドウに展示されていた「夜行――鞍馬」という絵が目にとまる。 妙に心惹かれる絵だった。絵に誘われるように、僕も画廊へと足を踏み入れた。 その絵は、岸田道生という既に亡くなっている画家が描いたもので、『夜行』という四十八作からなる連作のうちの一つであるらしい。
その夜、僕たちは火祭に出かける腰を重くして、鍋を囲んで酒を飲んでいた。そこへ僕が昼間、画廊で見た絵のことを話すと、みな岸田道生という画家と、その絵に心当たりがあるようで、それにまつわるそれぞれの昔語りをはじめる。 それは、どれも奇妙で怪しい物語だった。 |
メンバーのそれぞれの話は、みな一様に面白くて、まるで短編のよく出来た怪綺譚を読んでいるような感覚でした。
あまりにも話がうますぎて、小説家でもない一般人の若者が、ここまでの構成力と展開力と描写力で、ここまで仕上がった話を語れるものなのか……という違和感はありましたが、前の人の話の終わりのずいぶんと気になる締めくくりに対しても、誰も突っ込まないで次の人の話がはじまる……というスタイルは、むしろ新しいとも思いました。
これは、あくまでも物語が主役の物語なんだな、と途中から思い直したことで、作品の読み方が変わりました。
『東海道五十三次』ならぬ、『夜行』四十八作と、それと対をなす『曙光』という連作の発想や、そこから出現してくる異次元的な世界の情景は、現実のリアリティーなど吹き飛ばしてしまう強さがあり、「夜」の怪しさそのものが強烈なリアリティーで迫ってく感じでした。
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