『はじまらないティータイム』
原田ひ香著
(集英社)
(第31回すばる文学賞受賞作品)
子供のころから努力することで、望むものを掴んで生きてきた里美は、妻のいる男(博昭)を、妊娠する努力(?)をすることで勝ち取る。
博昭の伯母のミツエは、離婚された妻である佐智子に同情し、(里美と博昭の)結婚式には出席しないと言い張り、佐智子を探して、探偵の真似事をはじめる。そして佐智子を探し出したはいいが、訪ねていくと、佐智子のとんでもない秘密を目撃してしまうことに。 一方、ミツエの娘の奈都子。 奈都子はミツエから、従兄妹である博昭の離婚・結婚劇への愚痴をさんざん聞かされて、うんざりしていた。 そんな奈都子の元に、思い詰めた様子の里美が訪ねてきて、結婚式に出席してくれるように、ミツエを説得してほしいと言ってくる。 相手の厚かましさに、さらにうんざりさせられる奈都子だったが……。 |
この物語には、里美(略奪女)、佐智子(夫を略奪された妻)、ミツエ(夫の伯母)、奈都子(ミツエの娘。夫の従弟)、という4人の女が登場して、それぞれの女たちに視点が移りながら、ストーリーが転がっていき、まるで劇のような展開が巻き起こります。
それぞれの女たちがそれぞれの立場から、言い分なり感情なりを立ち上げていて、どの立場の女たちにも、それなりの正義と人生が存在しているんだな、ということが実感として伝わってきました。
また、視点が女から女へとバトンリレーのように繋がっていくのですが、これによって女同志がいかにお互いがお互いを冷静に観察し合っているか、ということのリアルが浮かび上がっていて、非常に面白かったです。
不倫が悪いとか、離婚された女はかわいそうとか、離婚される方にも問題があるんだとか、そんな個人的な義憤や倫理観、その他の感情で、それぞれの女たちは動いていますが、そんな次元で物語は物事の本質を捉え終えていません。
女たちが直面している世界の現実は、正論ではとても割り切れるようなものではないのです。
彼女たちが抱えている内面の暗さや複雑さが、客観的にみるととても可笑しく、また妙に人間染みていて、そこがとても小説世界を豊かにしていると思いました。
離婚の元凶になった夫である博昭をはじめ、ミツエや奈都子にも夫はいるのですが、彼らはほとんど影のようにしか描かれておらず、あくまでも舞台で照明が当たっているのは、女たちです。
最後に、二人の女(里美と佐智子)は対面し、見つめ合います。そこから何が起るのか、いかようなドラマも描けるような舞台設定だけして、作者は他の女たちと共に舞台袖へと去って行きます。
本当に劇のように終わったので、少し出来過ぎているという気はしましたが、中々面白かったです。