『パワー系181』
墨谷渉著
(第31回すばる文学賞受賞作品)
(集英社)
パソコン周辺機器メーカーの仕事を辞めた女(リカ)は、180センチを超える自らの肉体を鍛え上げるべく、トレーニングを続ける。
彼女が目指すのは、健康やシェイプアップでもなく、ボディビルダーのような見せるための筋肉を手に入れることでもない。 純粋な筋肉と、男を威圧するための身体の太さ、重量感を求めていた。 女は、居住するマンションにもう一部屋、仕事のための部屋を借り、ホームページを立ち上げる。 「パワー系個人クラブ・リカのお部屋」 そこに客としてやってくる男たち(やや小柄ばかり)の目的は、様々だった。 ある男は、リカの身体の細部をあちこち測量して自分と比べたがり、ある男はリカの衣服と自分のものを交換して着用することを望んだり……。 |
物語りは、リカの視点と、瀬川という会社員の男の視点、二つの視点から構成されています。
瀬川という男は、体型的なコンプレックスから背の高い女に特別な感情(憎悪と性的興奮)を持っている人物で、後にリカとは客として対峙することになります。
倒錯した性が持つ恋愛にも似た複雑な感情や攻撃性と、逞しい肉体への屈折したあるいは純粋な思い、というものが絡まって、いったいこれをどう理解して、なんと位置づけ、どんな呼称で呼ぶべきなのか、といったようなことが、投げかけられてくるのですが、そこに明確な答えなどはありません。
リカの視点で言うと、彼女は友人の葉子からのメールで、自分のはじめた仕事について、
”それって誰がどう聞いても風俗じゃない?”
と言われます。
密室で、客の男と二人きりの時間を過ごすことで料金をもらうのですが、性的な行為は一切しないので、風俗ではない。
と、リカは反論します。
けれど、どんなに説明しようとしても、相手が理解してくれる説明にはならずに、彼女自身も、そこで行われていることがどういうことなのか、よく分かっていないのだということが鮮明になります。
もう一人の主要登場人物、瀬川の視点では、女性に対する屈折した感情や、恋愛における自己中心性が描かれていて、コミカルなほどに自分勝手な片思いに敗れ、さらに自分勝手な憤怒に駆られて、リカの元を訪ねます。
この対面がもたらす結末は、何ともいえずシュールで、読後には不思議な感動すら覚えました。
短いですが、非常に読みごたえのある一作でした。