「ツバキ文具店」
小川糸著
(幻冬舎)
(2017年本屋大賞ノミネート作品)
鎌倉で代書屋を兼ねた文具店を営む先代の跡を継ぎ、「ツバキ文具店」の店主になった、ポッポこと雨宮鳩子。
雨宮家は、江戸時代から続く、由緒正しい代書屋なのだという。 代書といっても、ただ手紙や書類を代筆するというだけでなく、依頼人の心情に見合った文章を考えるところからはじまって、使用する筆や紙の素材、字体、(手紙なら)切手の絵柄などにまでこだわり、届ける相手に依頼人の真の思いを伝えられるものを仕上げる。それが、先代から受け継いだ代書屋としてのあるべき姿だと、ポッポは思っている。 跡を継いでから間もないが、ポッポの元には様々な依頼が舞い込んで来る。 暑中見舞いやお悔やみ状というのもあれば、離婚を報告する手紙、亡き夫から妻へ宛てた天国からの手紙、借金の断り状、絶縁状などなど……。
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小川糸さんは、2008年に『食堂かたつむり』を発表してデビュー。同作はベストセラーになり、映画化もされました。
その他に、NHKでドラマ化された『つるかめ助産院』などの作品もあります。
本作『ツバキ文具店』は、特別に大きな事件は起こりませんが、移りゆく鎌倉の四季を通じて、ツバキ文具店に集まる人々の交流や、代書屋として成長するポッポの姿が描かれます。
先代(ポッポの祖母)との間に確執があって、わだかまりを残したまま先代が亡くなっているので、ポッポはそれがずっと気にかかっているのですが、その辺にもドラマがあります。
全編を通じてハートフルな展開です。
個人的には、親友に絶縁状を送ってくれと頼まれた依頼に対して、ポッポが考えた末に思いついた「鏡文字」の手紙が、なかなか良いと思いました。