明けましておめでとうございます!!(*ノωノ)
『tori研』です。
今回から、長い見出しを少し縮めてみました。内容は、純文学系の新人賞を過去作品から研究してみるという、今まで通りのスタンスです。
表題にも記したように、今回から数回のシリーズで、新潮新人賞を研究してみたいと思います。
今回は、2006年~2009年(第38回~第41回)をみていきます。
以下が受賞作の一覧です。
第38回(2006年) |
「ポータブル・パレード」吉田直美(→読書感想はこちら) |
第39回(2007年) |
「アウレリャーノがやってくる」高橋文樹(→読書感想はこちら) |
第40回(2008年) |
「クロスフェーダーの曖昧な光」飯塚朝美(→読書感想はこちら) |
第41回(2009年) |
「神キチ」赤木和雄(→読書感想はこちら) |
【第38回】
「ポータブル・パレード」吉田直美
この時代の流行だったようでもありますが、下流小説、つまり格差社会における低所得者層の生活を描いたような小説、というところでしょうか。この作品も、そうした流れに沿った小説だと言えるのかもしれません。
”去勢した猫に愛を教える伝道師”という奇妙な触れ込みでペットを預かる仕事をしている男が出てきて、主人公はこの男と不倫をしている女で、この女の姉は男の妻である。
物語は、この複雑な関係性を持つ男と姉妹と、その周辺の家族を巻き込んだ一日の出来事を綴ったもの。
選考委員の評価はおよそ低かったのですが、複数の登場人物の動きを並行して描きながら、一日の中に物語をまとめ上げた力量に受賞の理由があったようです。
【第39回】
「アウレリャーノがやってくる」高橋文樹
東北の田舎から姉を頼って上京してきた文学青年(アマネヒト)の青春物語。
主人公が、これから生まれてくる自分の子供に向けて書いた小説(あるいは詩)という態をとっているからという前提があるのですが、作中の至る所に、普通なら読むに堪えないと思われるほどの大げさな詩的表現が出てきて、少し驚かされる一作でした。
文体については賛否両論なのではないかとも思うのですが、妙な可笑しみを持った青臭い情熱に支えられた作品で、町田康さん以外の選考委員の誰もが、この作品を消極的に批評しながらも、どこかでは作品が持つ不思議な魅力を否定することが出来なかった、という印象を持ちました。
この回は、大澤信亮さんが「宮澤賢治の暴力」で、評論部門で受賞されていて、こちらの評価はかなり高かったようです。
【第40回】
「クロスフェーダーの曖昧な光」飯塚朝美
三島由紀夫の『金閣寺』のオマージュで書かれた作品ですが、選評を読むと、実はかなり手厳しいものがありました。
細かいことを言いだすと色々あるのですが(例えば、三島の『金閣寺』と共に作品に取り込んだ速水御舟の『炎舞』に関する下調べが甘かったり等)、一番致命的だったことは、「光と闇」に二極化して展開しようとした物語の構造そのものが単純過ぎた……ということだったのではないかな、と思います。
作品の抱えた様々な問題点を挙げながらも、桐野夏生さんは最終的に次のように述べています。
それでも私はこの作品を推した。相対的評価という理由だけではなく、作者が開けるドアの在処をわかっているように感じられたからだ。あとは破綻へ向かおうとする勇気です、と言ったら、またまた失礼だろうか(『新潮』2008年11月号 選評より)
【第41回】
「神キチ」赤木和雄
選考委員のほぼ全員が高評価だった作品。特に、町田康さんの評価は高かったと思います。
突き抜けたパワーを持った、オカルトギャク漫画のような作品です。現代の宗教ブームを皮肉った内容で、ギャク漫画やコントのような要素と、不条理文学の要素が結実した作風だという印象でした。
一読した限りでは、この作品の真の良さが理解できなかったのですが、驚くべきは選考委員の方々の温度が非常に高い事です。第38回以降からでいえば、これは大変珍しいことです。
このことから考えても、当作品は、熟読し研究してみることに大変な価値があるのかもしれません。
私自身も過去に読書感想を書いていますが、ありきたりな感想に終始してしまったような気もしています。時間があればもう一読して、再度読書感想を書くこともあるかもしれません。その時には、また何か発見できるといいのですが……。
【まとめ】
以上、第38回から第41回までの新潮新人賞を簡単にまとめてみました。
他の新人賞に比べても、難易度の高い賞だと思いますが、選考委員の温度が極端に低い回などもあって、そういう時こそむしろ狙い目だったのかもしれません。
どちらにしろ、チャンスが全く転がっていないとも限らないわけで、ダメ元でも送ってみる価値のある場所だとも思うんですよね。
直近ではここから芥川賞候補(『縫わんばならん』古川真人)も出ていますから、要チェックな賞です。
応募規定が(400字詰め原稿用紙)250枚以内で短編も可、と、短い作品でも受けつけている所は、この賞の特徴でもあります。
第49回の選考委員には、上記にもありますが、第39回の新潮新人賞の評論部門で受賞されている大澤信亮さんが加わっています。
他に、川上未映子さん、鴻巣友季子さん、田中慎弥さん、中村文則さん、と個性的な方が揃っています。特に、田中慎弥さんがどんな選考をするのか、ちょっと楽しみです。
……と、あまり実のない話をしているうちに、そろそろお別れの時間です。
次回は第42回からです。近日中に、またお目にかかれるように、またもう少し読み応えのある中身になるよう、頑張ってみます。
それでは、みなさん、ごきげんよう(@^^)/~~~