何者

 

「何者」朝井リョウ著

(第148回直木賞受賞作)

(新潮社)

 

大学の演劇サークルで脚本を書いていた主人公の拓人(俺)は、同じ大学の光太郎とルームシェアしている。

光太郎の元カノである瑞月に密かに想いを寄せている拓人だったが、彼らの部屋の上階に瑞月の友達の理香が住んでいたことから理香の同棲相手である隆良も含んで(みな、同じ大学)、交流がはじまる。

彼らは就活の時期を迎えていて、理香の部屋を「就活対策本部」などとして、集まるようになる。

純粋で真っ直ぐな感性を持つ瑞月や意識高い系の理香は就活に前向きなのに対して、必死さをあまり感じられない温和な性格の光太郎。就職に否定的な意見を持ち、就活はしないと言い放ちながらも、陰ではちゃっかり就活している隆良

そんな友人たちの姿を、自らも就活中なのにもかかわらず、どこか冷静に「観察者」として見つめている、拓人がいた。

上記の他にも、かつての演劇仲間だったギンジや、サワ先輩(大学の先輩)なども出てきます。このように、主人公を含めるとかなり登場人物がいて、一見大衆劇の様相をしています。

SNSの文面をそのまま挿入していたり、若者が情報交換するやり方を細かく書いたり、登場人物たちのやり取りや会話を絶妙に織り込みながら、かなり至近距離で見た大学生たちの直面している就活の実態を、よりリアルに立体化しています。

自身の体験を元に書かれていることなのでしょうが、「等身大」というのとは少し違うと思いました。

「同時代感覚」というのが一番適切なのでしょうか。かつての自分がいた場所を、少し離れた場所から振り返っている、という感覚なのだと思います。

自分と同じ年代に生きる若者の「コンプレックス」や「エゴ」を、薄皮を一枚ずつ剥がすような手つきで、徐々露わにしていきます。

「近い」と思いました。「人間のドロドロの本質に近いな、筆致が」と。そこにどこまで近づけるかをまるで競って(誰と?)いるかのような書きぶりで、こういう所で読ませる人なんだな、と思います。

「観察者」というワードが小説中にも出てきますが、まさにこの作品は「等身大」の態をした冷静な「観察者」が、大学生たちの群れに紛れ込んでひたすら風刺的に彼らの実態を伝えようとしている、という印象でした。

一種の青春グラフティのような。

最後の逆転で、その「観察者」の視点が大きく揺れ動くことで、淡い青春グラフティのような世界が混乱し、そこにリアルな「感情」が生まれて、はじめて主人公の本当の顔が、たち現れてきます。

 

第22回小説すばる新人賞を受賞した「桐島、部活やめるってよ」もそうでしたが、冷静な「人間」の観察者でありながら、どこかで「人間」を捨てきれない、青臭い情愛のようなものが小説の底辺にあって、それがこの作家最大の魅力ではないかな、と思いました。