全米図書賞(翻訳文学部門)受賞作品

『献灯使』

多和田葉子(著)

(講談社)

全米図書賞というのは、アメリカで最も権威のある文学賞の一つで、多和田葉子さんが受賞された翻訳文学部門は、2018年に新設されたようです。

大災厄後に鎖国政策を実施して、老人が死ねなくなり、子供がひ弱になってしまった未来の日本を舞台にした小説です。

そこに描かれているのは、見知っているのに見知らぬ国のような、なんとも奇妙な日本で、外来語も電化製品も自動車もなくて、文明が一昔前に後退してしまったかのような、そんな世界です。

鎖国政策のために、外国との繋がりが断たれ、文化も言語も、内側に向かって濃縮されているようにも見えます。

諸外国との交流を断てば国にまとまりが出来るのかと言えば、経済的な活動も、国単位だったものが県単位になっていくし、政策を司る政府は民営化されて実態の分からないものへと変わり果ててしまうしなど、実にシュールな現実になっています。

全体で捉えようとすると、かなり難解、というよりもナンセンスな印象すら抱きます。教訓のない童話や神話のように、つかみどころのない小説ではないかと思えるのです。

この作品の(多和田葉子さんの作品全ての特徴なのかもしれませんが)魅力は、小説を築きあげている言葉そのものではないかと感じます。

言葉は言葉として存在を主張しているようにすら思えます。人間の歴史や生活習慣に伴って、時々で自在に変化する言葉の奇妙さや不可思議さが、単なる記号や暗喩の範囲を超えて紡がれているような気配があります。

全体よりも場面。場面というよりも、一文、一文。さらに解体した単語一文字、一文字の面白さ、深さ。これを味わわせてくれる作品だったかな、と思います。

こうした言語そのものの魅力に迫るような作品が、翻訳されて他国の言語に変換されて評価され、権威ある文学賞を受賞するというのも、実に面白いことだと思います。