群像 2017年 07 月号 [雑誌]

『毛婚』

栗田有起(著)

(『群像』2017年7月号に掲載)

 

 

 

 つわりが重く、会社を休んでいた「私」は、つわりから解放された朝、禿げているはずの夫の髪が、ふさふさになっていることに気付く。

それまではつわりが酷すぎて気づかなかっただけなのか?

絶対にかつらだと思う「私」に対し、夫は、三カ月くらい前から、突然生えてきたと言いはる。

 

『ハミザベス』第26回すばる文学賞を受賞してデビューした栗田有起さんの中編小説。

出産を控えた一組の夫婦に巻き起こる、奇妙で滑稽な物語です。

「毛」と「婚姻」に纏わるまことしやかな伝説が、神話的な様相を醸していて、本谷有希子さんの『異類婚姻譚』を思い出しました。

働きながら出産、育児(ともすれば離婚してシングルマザーとなっての子育て)の渦中に置かれる女性の、避けられない現実も透けて見えてくる作品でもあります。

しかしながら、夫婦愛の描かれ方が温かく、そこにファンタジーを感じました。