『未熟な同感者』
乗代雄介(著)
(『本物の読書家』(講談社)に収録)
二葉亭四迷、宮沢賢治、フローベール、カフカ、サリンジャー……など複数の作家の作品などから、多くの文が引用されています(実際、引用の方が本筋の展開よりも濃密で、分量も多いのでないでしょうか?)。
この引用を元に、話者が特定されていない太文字の解説(文学論?)が展開され、そこに主人公の阿佐美が、成り行きで受講することになった大学のゼミでの人間関係を中心にした本筋のストーリーが入り込んできます。
ゼミで出会った美少女「間村季那」や、他のゼミ仲間たちとのやりとり、失踪した「先生」に関する描写などが、妙に味のある文体で展開されています。
文学評論なのか小説なのか、その境界があいまいになればなるほどに、作品が強度を持ち出してしまう、不思議な書き方だな、と思いました。
小説は言葉で組み立てられる芸術ですが、その言葉が真実を歪ませたり虚構を作り出してしまうのに、作家が「完全な同感者」を求め続けるとはどういうことなのか。
生きること(経験すること)、書くこと、読むこと。体験者(生活者)と作家と読者。この三位一体を、これほど意識して本を読んだことはなかった気がします。
また、サリンジャーの良さを再認識できたことも、いい読書体験でした。