「音に聞く」 高尾長良(著) (文藝春秋)
三人称で書かれた手記(作者は作中にも出てくる有智子なる女性)を、文学好きの女性である「わたし」が、友人の男から読んで欲しいと託された、という前提があり、その後に当該の手記が続く、という構成の作品です。
手記の内容はというと、前年に母親を亡くした姉妹(有智子と真名)が、父親の住むウィーンにやって来るという話で、姉の有智子は、音楽の才能がある妹の真名の作曲の技術を伸ばす為に、音楽を教えている父親を頼ったのです。
父親は、妹の真名が生まれた15年前に母親とは離婚しており、姉妹との関係はやや複雑で、姉の有智子の真名に対する嫉妬の感情もあり…と、三人の関係はかなり微妙です。
音楽と言葉、ここでは音に出される言葉(つまり声ー会話、歌もしくは詩ーとなるのでしょうか)が一つのテーマになっていて、読んでいて驚いたのは、音楽に対する作者の知識、造詣の深さです。
そこにはそれなりの熱量を感じました。ただ全体的に一貫して衒学的な印象で、そこから抜け出して心に食い込んでくるなにものかが無かった(少なくとも私には)のは、やや残念でした。デビュー作である『肉骨茶』の、あの荒々しい個性的な野趣味を期待し過ぎたのかも知れません。上品でそつのない文章だったと思いますし、音楽の素養溢れる内容ですし、言葉を音の観点から捉え描こうとした視点は面白いと思いましたし、面白いはずです。
外国(ヨーロッパ)の古典文学を読んでいるかのような読み応え、という印象。