『百瀬、こっちを向いて。』 中田永一(著) (祥伝社文庫)
作者の中田永一さんというのは、ミステリ作家の乙一さんと同一人物だそうです。
乙一さんの作品自体、実はまだちゃんと読んだ事がなかったのですが、表題作である『百瀬、こっちを向いて。」他、『なみうちぎわ』『キャベツ畑に彼の声』『小梅が通る』が収録された恋愛短篇集の本書を読んで、彼の他の作品が読んでみたくなりました。
恋愛、それも主に十代という青春真っ只中の男女の恋愛を描いた作品群なのですが、そこにミステリや人間心理、ユーモア、哀惜など、様々な要素の織り込まれた内容になっていて、大人が読んでも切なくなれる短篇集だと思います。
小説の要素に、漫画的な展開力(もしくは設定力?)が含まれていて、かなり強引に思える人物造形や背景なども、「漫画的要素」として受け入れてしまうと、そこの不自然さが気にならなくなる。
ここの描き方のうまさも、自然でいいな、と思います。まず、なんと言っても読んでいてワクワクしてしまうし、切なくなってくるし、共感が持てる、そういう作品世界だったかな、と思います。
おそらく共感が持てた一番の理由は、小説の主人公やそれに近しい人たちが、どこか世の中の中心からずれたところにいるというコンプレックスを抱えながら生きている人たちで、そんな彼らの打算のないユーモアというか、可笑しさや哀しみというか、生きている姿そのものに、感情移入してしまうんですね。
彼らが、なんだかとてもけなげで愛おしい存在に思えてきてしまうというか。
若い世代が読んでも、もちろん共感出来ると思うのですが、青春時代から遠ざかった世代にこそ、私はちょっと読んでもらいたいな、と思います。