第151回芥川賞受賞候補作品 『マダム・キュリーと朝食を』 小林エリカ(著)  (集英社)

猫と少女。二人(1人と1匹)の語り手によって紡がれている物語なのですが、「光」というものがそこに関わってくることで、世代を超え、時空を超え、種や「個」の境目を超えて、点や線だけではない大きくて複雑な繋がり方で繋がってくる、そういう不思議な感覚があったと思います。

小説の中の「光」とは、様々な憶測をもたらすもので、希望だったり、愛だったり、生命の力だったり、そしてやはり「光」そのものであり、つまり太陽であり、原子核融合であり、そこから原子爆弾が連想され、死のイメージとも繋がり、死は生の裏返しであるのですから、やはり一周回って生命の力にたどり着き、そこに愛や希望が含まれている…という、循環しながら形を変え時空を呑み込んで膨らんでいく強大なスケールのイメージの連鎖があって、この小説の凄さはここにあるのだと思います。

科学の力は人間に幸福ももたらしますが、その逆のもの(大量殺人兵器として使われるなど)ももたらす、諸刃の剣です。

これは薬と毒の関係にも当てはまると思いますし、連想を広げれば、もっと色んなものに置き換え可能です。

ここに普遍性が潜んでいて、そういうところも全て分かった上で書かれている、非常に高度な技術と知の結晶が織り込まれている作品。それなのに文体はいたって平易、読み易くて可愛らしい印象さえ持ちます。

芥川賞の選考では、思わせぶりな予感がしているのに、どこかつかみどころのない印象がむしろマイナスに評価されてしまっていたようですが、ここも諸刃の剣だったかな、と私個人は感じました。

ただ、彼女のセンスの良さには完敗です。