『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』 J.D.サリンジャー(著) 金原瑞人(訳)
(新潮モダン・クラシックス)
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』で知られるサリンジャー。本書は彼の8つの短篇と、『ハプワース16、1924年』が収録されている。サリンジャーファンにはたまらない一冊であると思う。
8つの短篇のうち、6つまでが『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の主人公であるホールデンに関連した内容になっていて、こちらを読んでいる読者にはもうお馴染みの人物や家族の話が出てくる。
1950年代に登場したサリンジャーは、当時のアメリカの若者の姿を鋭く描き出し、若者文化の先駆けになった作家である。寡作だが、研ぎ澄まされた感受性で読者を魅了し続ける作品ばかりだ。サリンジャーを読むと、いつも心のどこかにしまい込まれている、自分でも気がつかなかった(あるいは忘れていた)特別な感情と巡り会える気がして、一度読んだものを何度読み返しても読み飽きることがない。
短篇集と言えば、『ナイン・ストーリーズ』が有名だが、サリンジャーをまだ知らない方には、まずそちらを読んでもらえたらと思う。『バナナフィッシュにうってつけの日』を読んで心に引っかかるものを感じられたら、こちらの本もどうぞ。文学的な評価や価値云々ではなく、そこに共感できるものがあるかどうかということで、私はサリンジャーを受け止めてきた。この一冊も、その視点だけで読んで、そして高く評価できると思った。