『藁の王』
谷崎由依(著)
(『新潮』2018年6月号に掲載)
大学で教鞭をとる小説家の「わたし」は、授業を通じて生徒たちと関わっていく中で、次第に深い森のような暗部へと追い詰められていきます。
彼女を追い詰めるのは、かつて学生だったころの自分と重なり合うかのような、文学に真摯な情熱を秘める少女たちです。
小説を書くということは、読むということは、どういうことなのか。そしてなんのために書くのか? ということを突き詰めるとき、そこには美しいだけではない文学の残酷な一面も顔をだします。
ひたむきに”書く者”だったはずの自分が、”教える者”の立場になったとき、いつの間にかかつての文学への純粋さを忘れていたことに、生徒である一人の少女の言葉によって気づかされます。
大学の敷地内にある「森」のイメージと、講義でも扱われるフレイザーの『金枝篇』のイメージ、そして創作という言の葉が生い茂る様のイメージが、不気味な恐さで繋がっていて、それが妙に美しいと感じました。
冒頭からラストまで、この作品は、どこか詩のようにずっと美しかった気がします。