《短篇》
『文通』
多和田葉子(著)
(『文學界』2018年1月号に掲載)
多和田葉子さんの、短篇小説です。
41歳の小説家(「陽太」)が、同窓会に出かけて行くところからはじまる、奇妙な物語。
人間の記憶が曖昧になるとき、曖昧になってしまった人生を生きている人物の、その現在までが曖昧になっていくような、その危うさが思われました。
遠くにいて相手を想いながら文字のやりとりでの会話だけで恋愛を完結させようとする(あるいは恋愛そのものから逃げようとする)、そんな主人公の行動には、歪んだ熱意が感じられて面白かったです。
全てが男の妄想ではないか、と疑いたくなるような展開だったように思います。