第136回芥川賞受賞作品
『ひとり日和』
青山七恵(著)
(河出書房新社)
5歳の時に両親が離婚してから母親と二人暮らしをしていた知寿(「わたし」)は、20歳の春、東京で暮らすことにする。
高校教師をしている母親が、先生同士の交換留学で中国行くことになり、それがきっかけだった。 母親の勧めで、東京の親戚の家に居候させてもらうことになる。 母親にもらった地図を手に、知寿がやってきたその家には、70代の老女が2匹の猫と共に一人で住んでいて、50歳も年の離れた二人の女たちの、共同生活がはじまる。 |
現在では群像新人文学賞の選考委員も務める青山七恵さんが、2007年に23歳の若さで芥川賞を受賞した作品です。
分かりやすく、無駄がなく、若々しい文体で、非常に読みやすい。その上、若者らしい傲慢さと孤独がそここに垣間見れて、よく出来た小説だな、と本作を読むのは二度目ですが、改めてそう感じました。
主人公である女性(知寿)の心の闇である”盗癖”に関して、あまり原因的なところに言及していないのも、想像を掻き立てられますし(その生い立ちなど)、作中では二人の恋人にフラれてしまうという、かなりかわいそうな役回りなのですが、彼女の背負っている闇の部分とこの二つの失恋が、どこかで繋がっているようにも読めました。
まだ20歳という年齢であるのも実によく出来ていて、この先に彼女を待ち受けるであろう様々なしがらみや孤独の予感を作品のラストでは匂わせてもいます。
けれど、自分よりも50年先を生きた老女と、一年の四季を感じながら生活した記憶を持つ知寿には、不思議と吹っ切れた清々しさのようなものが感じられます。
人間の孤独を、まだ危なげな感性で受け入れながら、人生の新しい出発点に立った主人公の姿が、切ないながらも初々しくて、胸にぐっときました。