高瀬ちひろ著
(第29回すばる文学賞受賞作品)
数々のナマズ伝説がある土地(田多間町)で生まれ育ち、かつてナマズの幻を見た叔母(小夜子)がいる弥生は、中学の時、クラスメートの一真と組んで、ナマズの民話のレポートを作ることになった。
弥生と一真は、「ナマズの番人」というあだ名のある、元図書館司書の水口さんの元へ、話を聞きに行くことになる。 水口さんは、現在は退職していて、最近は体調があまり良くないらしい。 人間嫌いだという噂もあり、少し恐い存在でもあったが、訪ねてみると具合が悪そうに、床に半身を起こしていた。 ナマズの話をすると、今ある伝説の原型を知っていると言う。そしてこんな話をはじめる。 ”かつてこの村の沼近くで、まぐわう男女があった” |
物語りは、母親になった弥生が、今にも生まれてこようとしているお腹の子に向かって話しかける、という形で綴られています。
なぜ、こんなにナマズに拘った話にしようとしたのかな、とはじめ少し疑問でしたが、読んでいくうち、なかなか面白い題材であると思いました。
まず、ナマズのぬるぬるとしたぬめり感と性的なものという連想があり、また妙心寺退蔵院の「瓢鮎図」から、瓢箪とナマズという組み合わせが一つのイメージとして捉えられていて、これも何か性的なものだったり、女性器や子宮に繋がる連想があるようで(ナマズそのものは男性器でしょう)、そこに語る相手である胎児を配置することで、一つの世界をつくろうとしたのかな、と受け取りました。
民話とエロチックが共鳴していて、それをナマズというちょっと飄然とした雰囲気のある生き物話にまとめてあるところが、民話が持つ本来的な野趣ともマッチしていて、とても良いと思いました。
ただ、中学生という微妙な年代の有する性的な危うさや、語り手である母親の持つ母性を含んだ柔らかさ、といったものを表現するには、もう少し文章に艶があった方が良かったのではないかな、と感じたりもしました。
もっと欲を言えば、民話や土着の伝説が持つ理不尽さやダイナミックな自然感といったものを、ぬるぬるとした筆さばきで怪しく解き放ってほしかったな、……と。
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