円卓

「円卓」

/西加奈子著

(文藝春秋)

 

小学三年生の渦原琴子こと「こっこ」は、ひたすら「孤独」に憧れる一風変わった少女です。まだ思春期の訪れていないこっこの「子供の世界」が瑞々しく描かれていて、不思議なノスタルジーに巡り合える作品です。

こっこに言わせると「凡人」である三つ子の姉たちや、やはり凡人である祖母や両親、家族では唯一シンパシーを感じている祖父。同じ公団に住んでいて、こっこの尊敬の対象である友人のぽっさん、憧れているクラスメートの香田めぐみさんや、その他にも個性的な友人たち……。こっこを取り巻く世界は、常に円卓を囲んでいるように賑やかで、こっこの望む「孤独」とは程遠い環境です。

そんな中で、「孤独」に繋がる魅惑的な言葉を見つけると、こっこは密かにジャポニカ学習帳に書き留めていきます。やがて本当の「孤独」を知ったとき、こっこは自宅公団のベランダから、ジャポニカ学習帳を放り投げてしまいます。

西加奈子さんの作品を読むと、どれも文章が読みやすく、尚且つ節々に「可笑しさ」を含んでいて、面白い。正直、「小説って、こんなに面白すぎて大丈夫なのかな?」と戸惑ってしまうことがままあります。面白すぎて悪いはずがないのですが、あまり面白すぎると、小説の世界から陰影が消えてしまって、酷く薄いものになってしまうか、最終的には破たんしていくのではないか、と心配になってしまいます。

確かに、西さんの作品は、常にそういう危険を孕んだ「面白すぎる要素」と、そこに匹敵できるだけの「影」との鬩ぎ合いがあるように感じられます。どちらが勝っても小説は破たんするでしょうし、せめぎ合いの果てに辿り付ける着地点を見失うと、物語は精彩を失ってしまいます。

「円卓」は、一人の少女が成長の過程で人生の「孤独」を知るという物語ですが、その先にあるクラスメートとの「繋がり」にまで手を伸ばした所に、西さんの小説に対する姿勢を感じました。

潰れた駅前の中華料理屋「大陸」から譲り受けたという円卓を囲む家族や、「しね」という文字を書いて小さく折りたたんだ紙を無数に隠し持っているクラスメート、突然現れて「ご尊顔を踏んでくれはるのん。」と言ってくる謎の鼠人間。こうした細部の魅力的な描写が、最後にまき散らす紙吹雪みたいに、読後押し寄せてきて一つの「感動」になりました。