新潮 2018年 07 月号

『窓』

古川真人(著)

(『新潮』2018年7月号に掲載)

 

 

 

デビュー作である新潮新人賞受賞作の『縫わんばならん』が、芥川賞候補になり、惜しくも受賞は逃しましたが、その続編とも言える『四時過ぎの船』が、再び芥川賞候補になりました。こちらも受賞は逃しましたが、注目を集める作品だったことは、間違いありません。

今回取り上げる『窓』という作品も、上の二作品と繋がりのある作品で、『四時過ぎの船』で主要な登場人物だった青年のの心の葛藤が、物語の主軸となります。

目の見えなくなった兄のの生活をサポートするという名目の元、大学を中退した後に無職の状態を続けている稔なのですが、内心では浩の補佐を自分の不甲斐ない生活の言い訳にしていることに、自責と苛立ちを募らせています。

この辺の心情や兄浩との暮らしぶりの実態が、前作より濃密かつ詳細に描かれていて、また「死」や腐臭のイメージと結びつく不穏な出来事に遭遇することでさらに心の葛藤を繰り広げる展開になっていて、かなり踏み込んだ内容になっていたように思います。

特に、小説の新人賞を受賞した稔が、作者自身の姿にも重なって読めますし、夢と現実と創作の境界のあやふやな領域に陥る場面などは、新境地を開拓しようとした手触りのようなものを感じました。