全米図書賞(翻訳文学部門)受賞作品

『JR上野駅公園口』

柳美里(著)

(河出文庫)

天皇と同じ日に生まれ、高度経済成長の時代を出稼ぎ労働者として生きた東北出身の男。家族の為に人生の大半を肉体労働に捧げながら、自身は家族と離れて暮らさねばならなかった男の孤独な生の模様が、過去を照射する形で見つめ直され、語られていく。

語り手の雰囲気は既に死者を思わせる不穏さに彩られており、語られる言葉の中にも死を匂わせるフレーズが挟まれていて、それ故にこの物語は冒頭からラストまで、死に貫かれて描かれていると言ってもよいでしょう。

つまり死の視点で、生の時間が貫通されている構造になっていて、人生の光(生)が、闇である死によって照らされ、炙り出されているのです。

過去から現在に至る流れとは別に、もはや時空の制限下にない死者の視点からの逆行するーあるいはランダムに彷徨うー視点の流れがあり、その交錯する様が実に見事に描かれています。

死者の視点から描かれていながら、生者の苦しみ、特に家族や親しい人間の死を抱えてなお生き続けなければならない生者の側の悲しみに焦点が当てられ、その孤独に寄り添っていて、言葉では言い尽くせない美しさに満ちた作品だと思いました。