第44回すばる文学賞受賞作品

『コンジュジ』

木崎みつ子(著)

(『すばる』2020年11月号に掲載)

 

90年代のロックスターの存在を、彼の死後に知り、そこから恋に落ちた1人の少女(女性)の物語。

主人公の中では、憧れるロックスターの伝記を元に繰り出される妄想が現実と絡み合っていて、なおかつ絡み合った妄想と現実がリアルな現実になっているという現実を、彼女は生きています。

前半部から中盤を超える辺りまでは、登場人物たちに奥行きが感じられず、なぜこの作品が選ばれたのかというクエスチョンマークが頭の中を踊りまくっていました。しかし実際には、これはかなりこの作品をみくびっていたのだと、中盤から終盤にかけての主人公の壊れ方とその描き方を読んで思いました。

正直なところ前半部、父親からの性的虐待という物語のメインの流れすら、この描き方だと少し悪趣味ではないかという気すらしていたのでした。

まず言葉が陳腐だと感じる場面が目に付き、ロックスターの自伝に書かれている内容の細かいエピソードも、やはり陳腐だという印象しか抱けなかった。なおかつ三人称で書かれた語り口の中に、軽さと妙な甘ったるさがあり、現実に起こっている事態とのズレがずっと気持ち悪くて、当初はこれは書き手自体の目線や技術力の低さではないかと疑ってかかっておりました。ですが後半以降、自分の読みの甘さを痛感したのでした。

作品を漂っていたある種の気持ち悪さは、ある地点を超えたあたりから、むしろ際立ってきます。主人公の心の壊れ方が余りにも振り切れすぎていて、言葉やエピソードの陳腐さをも超えていってしまったのです。既視感がある、陳腐だと思った表現すら、それがこの作品を書くにあたっての正しい書き方だったのだろうという結論にまでなりました。