第52回新潮新人賞受賞作品
『追いつかれた者たち』
濱道拓(著)
(『新潮』2020年11月号に掲載)
田舎町で起こった凄惨な監禁暴行事件の顛末を描いた今作は、人間の中に潜む暴力性を追求しています。
暴力を、単なる悪としてではなく、善良で普通の優しい感情を有する人間の中にも潜むありきたりなものとして捉えていて、あらゆる人間に共通するであろう心の闇として描き出している所に、最大の共感を覚えました。
人間(少年)の中で育つ暴力が、劣等感や孤独といった負の要素と結びつきながら膨らんでいく様を実に丁寧に描いています。しかし実際には肝心な核心的部分ーー少年の中のなにがどことどう繋がっていてそうなる(暴力的になる)のかーーという心の中の解剖図は、さほど鮮明ではなく、むしろどろどろとした謎に満ちた状態です。まるで煮込まれた闇鍋の中を覗き込むように、読者はそれを眺めるのです。この描き方こそ、暴力を主題とした小説で作者がとるべき一番正しい誠実なあり方だろうかと思います。この誠実さがあるからこそ、冒頭からラストまで読者を一気に引き込んだ残忍な展開の数々にも耐えられた。
小説の書き手として、いい加減な言葉は一言も書かないぞ、という作者の意気込みが強く感じられた一作でした。読んでいて、息苦しいほどの圧倒感で迫ってくる内容で、とにかく素晴らしかった(本当に素晴らしいものを読んでしまったときにはいつもそうですが、大抵の場合、『素晴らしかった』というこの陳腐な感想しか出でこないもの)です。
私の中では、間違いなく今季の芥川賞(むろんそんな力などありませんが、これを選べる立場の人間の1人だったら必ず推す一作、ということ)であります。