『最後の自粛』

鴻池留衣(著) 

(『新潮』2020年6月号に掲載)

 

高校を舞台にしたちょっと過激なSF小説……といっても良いのでしょうか。

コロナ禍の今の世界を投影した内容になっていて、地球温暖化研究会なる怪しげな愛好会に所属する不良高校生と教師が登場し、周囲を、やがては世界を巻き込んで展開していきます。妙なリアリティと、リアリティの希薄さが内在していて、実に荒唐無稽です。

かなり踏み込んだ危険な小説だとも思うのですが、どこか戯画的で軽やかな馬鹿馬鹿しさがあって、それが何らかの意見を差し挟まんとする人間の意気を削いでしまう強かな策略のようにも読めました。

1人の高校生ーーというか一体の機械(?)が世界を翻弄していくプロセスの胡散臭い感じが、怪しげな新興宗教のできていくプロセスと類似しているのも(これは意識的に書かれていたはずですが)面白いですし、何より「天気」というものに目をつけたところが良かったかな、と思います。

天気とは、余りにも身近で、かつ余りにも人類の想像の範疇を超えたあり方で人類と結びついてきたものであり、つまり本来的には予測不能で時に人間に牙をむくこともある、実に厄介なものです。

それが操作可能になった時点で兵器となりうるという怖さについて、リアリティのないリアルさで提示し、その一方でどんな災いよりも結局本当に恐ろしいのは、やっぱり人間自身であると訴える。

ほとんど狂気のような内容だと思いましたが、狂人の軽やかな冷静さが人間の愚かしさを見つめ、徹底して物語を貫いてもいたかとも思います。

今、現在進行形で起こっていることや世界の歪みについて、素直に想いを馳せながら読み終えることができました。

次回作を期待しています。