『的になった七未』今村夏子(著) (2020年文學界 1月号に掲載)
今村夏子さんが描く主人公は、いつもどこか孤独を抱えていて哀しい、それでいて純真無垢であるという少女のイメージがあります。
本作も、そういう少女が登場します。この作品に、何か寓意的なものを求めようとするならば、作品を殺してしまうことになるような気がします。
子供の頃からひたすら的になり誰かに何か(何でもいいのですが)を当てられたい、けれどどんなに待ち望んでも一向に誰からも何も当ててもらえないままに人生の長い時間を過ごしてしまうことになる女性の物語、とこんな突拍子もない筋書きに、いかなる寓意も通用しないという気もします。
味わうならば、そこにある不気味さでしょうか。
純真無垢な一人の少女に付き纏う、悪夢みたいな苦汁の現実、それに対峙する少女の明るさと健気さ。そこには、計り知れないほどの大きな空虚感があって、なんとも言えないような不気味さとユーモアがあります。印象派の絵画のように、ただ感じるままを感じるだけでいいのかもしれません。