第103回文學界新人賞受賞作品
『いやしい鳥』
藤野可織(著)
(文藝春秋)
『爪と目』で第149回芥川賞を受賞した藤野可織さんの、デビュー作品です。
本作で文學界新人賞を受賞したのが2006年のことなので、ずいぶんと時間が経ってますが、読書感想を改めて書いてみようと、久しぶりに手に取ってみました。
読んでみると、再読であるのになんだか新鮮な感動があって、驚きでした。
物語は、大学で非常勤講師をしている高木という男と、その隣に住んでいる主婦の内田、そして高木を訪ねてくる恋人らしい女性の武藤、という三人の視点からある事件(?)に纏わる事柄が綴られていって、ミステリー仕掛けな構造になっています。
この三視点から成る構造や文体やミステリーチックな仕掛け(最後の落ちまで含めて)そのものはごくありふれた手法ですし、特に注目するものではありませんが、ではなにが新鮮だったかというと、徹底した”気持ち悪さ”。これに尽きると思います。
いかに純度の高い良質な(あるいは悪質な)”気持ち悪さ”を抽出するかということに、全神経が注がれているかのような作品だったように感じました。
この徹底した描写ぶりにより、高木というごく平凡そうにしか見えない一人の人物の周辺が、にわかにユーモラスを孕んだグロテスクで不条理な世界へと変貌を遂げます。
最終的な落ちまで読んで、え?だから何? と戸惑う読者もいるのでしょう。
ただ、これは細部を味わう作品なのだと思います。
なんだ、結局そんな落ちか、と締めくくるのではなく、そうなった過程の薄気味悪さとか、まるで悪夢と境を失くした現実の後味の悪さにどっぷりと浸かって頁を閉じるべき作品、なのだろうと思うのです。