11月10日に第39回野間文芸新人賞が発表され、今村夏子さんの 『星の子』と、高橋弘希さんの『日曜日の人々(サンデー・ピープル)』がダブル受賞されました。
二つの作品を、今回はまとめてみました。
今村夏子(著)
『星の子』
(朝日新聞出版)
怪しげな水を売る宗教的な団体に取り込まれてしまった、両親。その両親の元で育つ、ひとりの少女の物語です。
両親を含め、団体に関わる人々との交流がある一方で、学校での少女ははごく普通の生活をしていて、二つの世界で静かに揺れているように読めました。 両親が傾倒した団体の教えを、娘にも伝えようとする行為は、一方的な押しつけであり、子供である立場からは逃げようがありません。 これはある種の「虐待」と捉えられてもいいようですが、作品ではこれを単純に「暴力」として扱うのではなく、その先にある答えを、少女の柔らかい感性に委ねているような印象があり、複雑に成り立っている家族の「愛」の一つの形を見せられた思いでした。 本作は、第157回芥川賞の候補作にもなり、話題を集めた作品でもあります。 |
高橋弘希(著)
『日曜日の人々(サンデー・ピープル)』
(講談社)
現代社会の大きな問題の一つになっている「自殺」をテーマにしていて、かなり重たい内容ですが、読後感はなぜかそんなに暗くない気がしました。
物語は、大学生の主人公の元に、自殺した従姉が生前に発送していた配達物が届けられるところから始まります。 荷物の中身は、従姉の書いた日記のようなもので、その内容から辿ると、一つのウェブサイトに行き着きます。 それが、心に様々な問題を抱えた人々が集う、「REM(レム)」というサイトで、主人公は自分の正体を隠して、この「REM」が定期的に開いている会合に参加します。そして、従姉の自殺の真相に迫っていく……というもの。 「日曜日の人々」というのは、「REM」の会合でメンバーたちが話したそれぞれの告白を、文字に起こして冊子にまとめたものです。 精神的な苦痛から自殺願望を抱いてしまう人々の姿がリアルに描かれていて、色々と考えさせられました。 自殺を、ただ一方的に否定するだけではなく、そこに足を踏み込んでしまう人々の心の弱さに寄り添った視点があり、人間への優しさがあると思いました。 |
なお、同時に発表された第70回野間文芸賞は、高村薫さんの『土の記』(上・下)が受賞され、
第55回野間児童文芸賞は、山本悦子さんの『神隠しの教室』が受賞されました。