『サキの忘れ物』
津村記久子(著)
(『文藝』2017年秋(8月)号に掲載)
高校を中退し、病院に併設された喫茶店で、アルバイトをしている千春。
常連客の中に、気になる女性がいた。 女の人は、いつもだいたい同じ時間に一人できて、本を読んで過ごしている。 その女の人がある日、一冊の本を忘れて帰ったことで、思わぬ交流がはじまる。 それは、”サキ”という作家の短編集で、千春が自分から進んで読んだ、はじめての本になった。 |
『ポトスライムの舟』で、第140回芥川賞を受賞した、津村記久子さんの短編小説です。
サキというのは、イギリスの小説家で、オー・ヘンリーとならぶ短篇の名手です。
本作は、サキの短篇集が重要な役割を果たして物語が動いていく話で、短編の中にさらに別の短編が登場してくる、という構図になっています。
物語りの主人公の千春は、学校でも家でも、周囲からの愛情を受けずに育ってきたため、人との交流が苦手であり、またあまり勉強もしていなくて、小説は、学校の教科書に載っていたものくらいしか、読んだことがありませんでした。
そんな彼女の人生を大きく変えた「出逢い」を描いた作品です。
二人の女の孤独な心が、不器用ながらも通じ合う感覚がじわじわと伝わってきて、ふと優しい気持ちになりました。