ビニール傘

『背中の月』

岸政彦(著)

(『ビニール傘』(新潮社)に所収)

 

 

 

第156回芥川賞候補作『ビニール傘』の著者で、社会学者の岸政彦さんの、二作目の短編小説です。

妻を亡くした喪失感を抱えながら、大阪の片隅に暮らす男の現実と、切ない心象風景が描かれています。

大阪というと、古くから商人の街であり、お笑いの聖地であり、”にぎやかで、底抜けに明るい”という勝手なイメージが先行してしまいますが、本作で描かれるのは、どこか陰りのある「大阪」です。

バブル崩壊後の、暗い世相を反映していて、そこで生きる男女は、それでも健気に明るい印象です。

男は、突然に人生の伴侶を失ってしまい、孤独をさ迷いますが、そのなかでも微かな光を求めている感じが繊細に伝わってきて、胸を打つ美しい小説だと思います。

ラストは、希望に向かって歩き出しているのだと、解釈したいところです。