自分を好きになる方法 (講談社文庫)

第27回三島由紀夫賞受賞作品

『自分を好きになる方法』

本谷有希子(著)

(講談社)

 

 

 

リンデという一人の女性の人生が、16歳、28歳、34歳、47歳、3歳、63歳、と、六つ時間で切り取られて、描かれます。

地味で平凡そうな彼女の日常には、特別な”事件”は起こりません。けれど、リンデはその時々で、彼女なりの重大な決断を迫られたり、人生を俯瞰的に見つめ直したりする瞬間を持ちます。

16歳のリンデは、二人の学校の女友達とボーリングに来ていて、一見楽しんでいる風を装いますが、実は彼女たちのことが、自分は好きではないと気づき、心から好きだと思える理想の友達像を想い描きます。

28歳で恋人と旅行に来たリンデは、どうしてもかみ合わない二人の関係に、焦りや怒りや寂しさを募らせます。

34歳の時には、夫と結婚記念日をダイナーで過ごすのですが、やはり会話がかみ合わず……という展開。

このように、リンデの60年という時間の中では、常に対人関係のすれ違いや、不満、衝突、といったストレスの負荷がかかっていて、彼女はずっと、理想的な人間関係に憧れを抱き続けます。

時には、かみ合わない関係の中にも、折り合いをつけ、なんとか納得して生きていこうとするリンデなのですが、年をとるほどに、孤独の度合いが、いや増してくるようです。

離婚して独身になったリンデが63歳になった時、荷物の配達人や、はじめて入った洋服のリフォーム店の女に”理想の人間関係”を夢想しはじめるほどに、彼女は孤独なのです。

けれど、”誰かに愛されたい”というささやかな感情を、彼女が人生の折々で温め、そっと大切な宝物のように胸の奥に秘めているという気配は、とても可愛らしいし、共感が持てました。