『海猫ツリーハウス』
木村友祐著
(集英社)
(第33回すばる文学賞受賞作品)
服飾の専門学校を中途退学し、青森の実家で祖父の農業を手伝いながら、昼間は「親方」と共に、ツリーハウスを造り続けるおれ(亮介)、25歳。
デザイナーの夢を捨てきれずにいるものの、現在の境遇に甘んじている亮介は、ヘリコプターに吊るされて死んでいるような自分の幻影を時々みる。 特定の恋人はおらず、ナンパで知り合った複数の女性と、遊び本位の関係を重ねている状態。 そんな時、兄の慎平が、実家に戻ってきた。 慎平は、社交的で明るく人気者で調子が良い。そんな兄に亮介は、屈折した気持ちと反感を抱いている。 慎平が、今回戻ってきたのは「スローライフ」を標榜した、新しい農業をやるためで、それは祖父が長年培ってきた百姓のやり方とは、まったく違うものだという。 兄弟であるのに、自分とは異質な兄の言動に、心をかき乱される亮介だった。 |
ヘリコプターで吊るされた「おれ」(亮介)の幻影や、祖父母と共に勤しむ農作業の場面、二十棟にもおよぶ様々な趣向の凝らされたツリーハウスの集落、ウミネコと出会う磯場。これらは、非常に視覚的に描かれていて、海が近くまた緑も豊かな東北の田舎の情景が浮かびます。
標準語で書かれた地の文に対して、会話文の訛り言葉がスムーズな流れをせき止めながら絡まってきて、それが不思議な味わいを醸しています。
現状に甘んじながらも、どこかで夢を捨てきれずにいる田舎暮らしの若者の焦燥感が、家族や周りの人々との交流の中で苛立ちと共に膨れ上がり、やがてそれは出口を求めるかのように、作品後半で爆発します。
ここで終わらずに、最後に海へ主人公を誘い込んだところや、ありがちな田舎暮らしのハートフル物語りに仕立てていないところなど、非常に良かったと思います。
どんなに反発して、どんなに憎み合って、離れようとしても、たぶん家族というしがらみからは逃げられないだろうな、という予感もして、そいうことを言葉では書いてしまわない、そういう繊細さも、いいな、と思いました。
なぜ、表紙がペンギンで、ウミネコでないのかが疑問ですが、確かに可愛いですね(笑)
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