読書感想
『やすらい花』古井由吉(著) 読書感想
2019年12月10日 読書感想
『やすらい花』 古井由吉(著) (新潮社) 表題作を含む全八篇からなる短篇集です。 老いの境地にあって、男女の睦を(あるいは隔たりを)これほどに艶やかに怪しく書ける人はいるのでしょうか。 現実、夢、記憶、幻想、想念、様 …
『幼な子の聖戦』木村友祐(著) 読書感想
2019年12月5日 読書感想
『幼な子の聖戦』 木村友祐(著) (『すばる』2019年11月号に掲載) 地元の村長選をめぐり、不本意な理由から友人である候補者の妨害に関わらることになっていく男の物語。 閉塞感の中に閉じ込められ、ひたすら争っているの …
『異星の客』ロバート・A・ハインライン(著)/井上一夫(訳) 読書感想
『異星の客』 ロバート・A・ハインライン(著) 井上一夫(訳) (創元SF文庫) 言わずと知れたSFの大家ハインラインの、ヒューゴー賞を受賞した長篇。 地球人の両親の間に生まれて火星人に育てられた青年が、全滅した火星探検 …
『某』川上弘美(著) 読書感想
2019年11月28日 読書感想
『某』 川上弘美(著) (幻冬者) 名前も年齢も性別すら分からなくて、突然意識を持ちはじめた「誰でもない者」が語りだす、奇妙な物語。 人間の(いや命の)自我とは何か、生きているとは、死ぬとは、自分が自分であるとは、いっ …
『クネレルのサマーキャンプ』エトガル・ケレット(著)/母袋夏生(訳) 読書感想
『クネレルのサマーキャンプ』 エトガル・ケレット(著) 母袋夏生(訳) (河出書房新社) 表題作『クネレルのサマーキャンプ』他、全31編からなる作品集です。 中編である表題作以外は、かなり短い作品ばかりですが、不思議 …
『楓橋夜泊』藤代泉(著) 読書感想
2019年11月24日 読書感想
『楓橋夜泊』 藤代泉(著) (『群像』2019年11月号に掲載) 棚卸しの作業中に骨折して入院することになった女性(「私」)が、病室の中で二十年前に旅した中国の記憶を呼び覚ましていくというもの。細部が素晴らしい。 けれ …
『きらきらひかる』江國香織(著) 読書感想
2019年11月21日 読書感想
『きらきらひかる』 江國香織(著) (新潮文庫) 同性愛者の夫(睦月)と、アルコール依存症の妻(笑子)、そして睦月の恋人である紺(男)という三角な関係。 シンプルな恋愛小説を書いたと言い切る作者ですが、かなり複雑な …
『犬のかたちをしているもの』高瀬隼子(著)第43回すばる文学賞受賞作品 読書感想
第43回すばる文学賞受賞作品 『犬のかたちをしているもの』 高瀬隼子(著) (『すばる』2019年11月号に掲載) 主人公は子宮に病気を抱えている女性(「わたし」)で、交際相手とは一年前からセックスレスの関係を受け入 …
『尾を喰う蛇』中西智佐乃(著)第51回新潮新人賞受賞作品 読書感想
第51回新潮新人賞受賞作品 『尾を喰う蛇』 中西智佐乃(著) 大阪の病院に勤める、35歳の介護福祉士の男が主人公の物語。 男は恋人と別れて一年以上も独り身で、職場では老人の介護に追われる日々です。 医療現場のやりきれな …
『流卵』吉村萬壱(著) 読書感想
2019年11月14日 読書感想
『流卵』 吉村萬壱(著) (河出書房新社) 病室で死にかけている父親の「貧相な脹ら脛」に触れるところからはじまる、少年時代の回想。 中学二年生の少年の中にある変身願望や黒魔術への憧れ、同性の友達に対する尊敬と蔑みの入り …
『リボンの男』山崎ナオコーラ(著)読書感想
2019年11月7日 読書感想
『リボンの男』山崎ナオコーラ(著) (河出書房新社) 育児のために仕事を辞めて主夫になった男と、その家族の物語。 視点が優しいのは、子供を見守る親の立場から、自身の体験を元に書かれているからでしょう。 自分は時給マイナス …
『第三の嘘』アゴタ・クリストフ(著)/堀茂樹(訳) 読書感想
2019年11月6日 読書感想
『第三の嘘』 アゴタ・クリストフ(著) 堀茂樹(訳) (早川書房) 『悪童日記』『ふたりの証拠』に続く三部作の完結編とも言える作品です。 完結編でありながら、むしろ謎が(もしくは疑惑が)より深まったという気がします。 こ …
『行列』津村記久子(著) 読書感想
2019年10月29日 読書感想
『行列』津村記久子(著) (『新潮』2019年9月号に掲載) 無料で「あれ」(はっきりと何かは分からないのですが、多分滅多に日本では展示されることがない海外の美術館所有などの素晴らしい芸術作品ではないかと想像します。小 …
『デッドライン』千葉雅也(著)読書感想
2019年10月27日 読書感想
『デッドライン』 千葉雅也(著) (新潮社) 地方から上京してきた大学院生の話で、彼は男しか恋愛対象にできない青年で、周囲にもカミングアウトしていて、論文を書いています。 彼の研究対象でもある哲学的な問いかけが、性の境 …
『ふたりの証拠』アゴタ・クリストフ(著)/堀茂樹(訳) 読書感想
『ふたりの証拠』 アゴタ・クリストフ(著) 堀茂樹(訳) (早川書房) 本作は、悲惨な戦時下の世界を変わり者の祖母の元で逞しく生き抜く双子を描いた『悪童日記』の続編です。 主人公の少年たちが突然別れていく『悪童日記』の衝 …