『猿を焼く』  東山彰良(著)  (『群像』2020年1月号に掲載)

中学3年生だった「ぼく」は、突然農業をやりたいと言い出した両親について九州の田舎町にやってきた。閉鎖的な社会の中で孤立していった「ぼく」は、ひとりの少女に恋をして…。

青春小説にしては重すぎる内容ですが、読み応えは十分でした。

著者の短篇ははじめて読みましたが、直木賞をとった『流』を読んだ時にも感じた、肉の奥から血が湧くような人間の「生」の温度感がありました。やはり、すごい書き手なんだと思います。

コントロールをなくした「性」や「暴力」の渦中に巻き込まれ足掻く一方で、しかし一点覚めたような冷静なところもある語り手「ぼく」の描写(視点)が良かった。

人間というものは、こんな風に正しくもあり得ず間違え倒すことも出来ないし、純愛に一途でもあり続けられない。そういう哀しい生き物なんだとつくづく思わせるところなど、本当にすごい。