第56回文藝賞受賞作品

『改良』

遠野遥(著)

(『文藝』2019年冬号に掲載)

 

今回の文藝賞は二作品が選ばれており、もう一作は宇佐見りんさんの『かか』です。

興味深いのは、二作品共に、暴力としての「男性像」が、形は違えど描かれていた所かな、というところです。

遠野さんの書かれた本作品では、幼少期に受けた友達の男の子からの性的な暴力がトラウマになり、その後の人生を狂わされた(と言っても精神的な側面でですが)男性が主人公です。

彼が目指そうとし、手に入れたいと切望する「美しい女性像」と、彼を追い詰めることになったきっかけである「暴力的な男性像」とは、どちらも虚像であるという気がします。それは人間が、長い歴史の中で勝手に作り上げてきたに過ぎない定型ーー男とはこうあるべき、こういうもの。女とはこうあるべき、こういうものーーという固定観念的なものでしかないように見えるのです。

少なくともそのことが、潜在的な意識下のレベルで作品の中に取り込まれているという印象を受けました。

それらはどちらも虚像でありながら、強く人間の心を捉えていて、少なくとも主人公の男は、そこに囚われ続けてきます。

そしてなおかつ、何故そうなのか、という確かな理由を、彼は見つけ出せていません。ここに、「性」にま関わるリアルな不気味さがあったと思います。

理由の分からない、けれど絶対的な逃れようのないものに、主人公が終始囚われ、振り回され続けている様が見事でした。

熱すぎず冷たすぎない文章の温度感も、丁度良かったです。

かなり深刻さの濃厚な内容なのに、文体が違えば喜劇にもなり得るギリギリのラインを、一貫してそうさせなかったところにも、力量を感じました。

好きな作品です。