第162回芥川賞候補作品

『最高の任務』

乗代雄介(著)

(『群像』2019年12月号に掲載)

 

本作の主人公(語り手)である「私」は、デビュー作である「十七八より」の主人公でもある阿佐美景子です。

かつて自身によって「あの少女」と呼ばれ書かれた思い出の中の少女が、今回も登場し、やはり思い出の中の人物(日記では「あんた、誰?」)として、書かれ、語られています。

死んだ叔母を含めて家族やその歴史を丁寧に積み上げて世界を構築している様は、同じく今回芥川賞候補となった古川真人さんの作品世界とと共通していると思いますが、古川さんが自身のルーツである長崎の離島やその土地にまつわる歴史を背景にしているのに対して、乗代さんという作家は自身の親しんだ文学の世界を背景にしているというように感じられます。

特に、サリンジャーの影響が強いのかな、と感じてしまうのは、デビュー作から繋がる家族の描き方や受ける印象なんかが、やはり一族ものを描き続けたサリンジャーの世界と似ている気がして仕方がないからです。サリンジャーもそうですが、乗代さんもまた作中に登場する家族たちや文学に対する深い愛情と愛着があり、世界が家族と文学にだけに向けられていて、そして満たされてしまっている印象を受けます。

ある意味ではひとりよがりな世界とも言えますが、これは自意識をテーマに書かれているのであり、これを純粋に追求するにあたっては、これほど誠実な姿勢はないのかもしれません。つまり、十分分かった上でのひとりよがり。

乗代さんはデビュー作の頃から一定の評価をされてきた書き手ですし、今回、芥川賞候補になったことも驚くべきことではないでしょう。今求められている小説の形として(あるいは方向、もしくは追求として)、この作品があるということなんだろうと思います。