『リボンの男』

山崎ナオコーラ(著)

(『文藝』2019年秋号に掲載)

 

育児のために仕事を辞めて主夫になった男と、その家族の物語。

視点が優しいのは、子供を見守る親の立場から、自身の体験を元に書かれているからでしょう。

自分は時給マイナスいくら、とつい考えてしまう主人公は、経済社会の生産性という概念に囚われてしまっていて、しかしながら彼は必ずしもそれを自虐だとは捉えていない節もあり、その感覚は新しいものであると思いました。

また、会社という集団世界から離れて家庭に入った主人公は、「小さな世界」に生きていて、1日のほとんどを子供と共に過ごします。

子供と二人だけの「小さな世界」は、一家の大黒柱として働く妻が直結している「大きな世界」(会社組織)との、単純な対比ではなく、「小さな世界」なりに孤立ではなく強く存在しようとしていて、そこに情熱を持って生きている姿はけなげで美しいとも思えました。

また、「小さな世界」は、虫や植物や動物という自然界の世界とも繋がっていて、細部を繊細に見つめていく「観察」という眼差しにも通じることで、人間社会が作り出す「大きな世界」とは違う大きさを持つ、さらに大きな世界とも繋がるわけで、この一連の流れや微妙なバランス感覚はさすがたな、と感じました。

そこに持ってきたの「ヒモ男」からの「リボン男」への転身なので、見事な繋がり具合だなあ、と感心してしまいました。

性差の問題にも踏み込んでいて、既成概念を一方的に攻撃して打ち壊すのではなく、大らかに覆していくユーモラスな感じが、この作者独特の柔らかさというか、魅力なんじゃないかな、とも思いました。