『金を払うから素手で

      殴らせてくれないか?』

木下古栗(著) 

(講談社)

 

まず、題名がいい。しびれます。

物語は、とある会社のオフィスで、進行中の案件をほったらかして失踪した男(米原正和)を、当の失踪しているはずの(?!)男(つまり米原正和を)が、今から探しに行くぞ、と職場の人間(鈴木)に言っているところから始まります。

そして鈴木は、何の疑いもなく米原の言葉をそのまま受けて、失踪している米原を、米原自身と共に(他の職場の仲間たちと一緒になって)探すことに同行するのです。

何とシュールすぎる展開でしょうか。

物語の冒頭から、物語の核になる部分で、ものすごく不条理で歪んでいる点(間違い、もしくは破綻)を一つ投入し、一貫してその間違いを訂正しない。

この暴挙とも取れる挑戦的な設定のまま突き進んでいく物語は、ラストに控えている暴力や死へと繋がる狂気そのものの伏線であり、暴力や死は伏線の回収だったのだと思います。

つまり世界は全てがはじめから狂っているのだと、ただしその兆しはごく小さな一点の歪みでしかないかのように見えていたもので、物語中の人物たちからすれば、見えてすらなかったものだということを、具現化してみたらこういう小説になった、というところなのかな、と。

文章としては、どちらかというと読みにく印象があったという気がします。これは、書かれている内容そのものが余りにも常軌を逸してしまった状況である上で、必然的にそうなったとしか思えない節があり、作者の意図的なものを感じました。

好き嫌いは分かれる作品だろうな、と思いますが、木下古栗さんが創り出す狂気的な世界が好きな読者にはたまらない一作であるでしょう。