『私の中のわたしたち』

オルガ・R・トゥルヒーヨ(著)

伊藤淑子(訳) 

(国書刊行会)

子供時代(はじまりは3歳の時から)実の父親から性的虐待を受け続け、解離性同一障害(DID)と診断された女性が、自らの体験と、大人になり治療を受け回復していく過程を体験談として書き記したものです。

本書は児童虐待のトラウマに苦しむ、自らと同じ境遇の多くの人々の救済や心の支えになることが目的で書かれているもので、非常に胸を打つ内容であります。

実際に性的虐待の被害者となった人たちが読むことを前提に書かれているので、暴力的な描写にはかなり配慮がなされているのですが、それでもそこに書かれている内容は、あまりにも衝撃的で、虐待されていた時期の詳細を読み進めることはかなり精神的に辛いものがありました。

あまりにも辛すぎる現実から身を守るために、語り手の女性は自分の中にいくつもの「わたし」をつくりだし、暴力の詳細を細分化しバラバラにして、それぞれの「わたし」に担わせ、主体である「私」から遠ざけて(解離)忘却させてしまうことで、自己防衛して生き延びていきます。

そのような内面世界の描写(告白)は驚くべきもので、「私」とはなんなのだろう?という普遍的な問いかけにも通じていて、興味深いものがありました。

作品の後半は、彼女が深い苦しみから回復していく過程が描かれていて、ここにはひとりの人間の生きる強さというか、彼女が持っている忍耐力の強さや人間的な深みを感じさせられるものがあります。

彼女は、自らを虐待した父親(後には兄達も)や、無関心という立場でやはり虐待に加担していた母親に怒りを持ちながらも、どこかでは家族としての愛情を捨てきれないところがあり、はたから見れば、「なぜ?」と思うようなことなのですが、そのような姿は、情愛のしがらみに繋がれているひとりの人間の姿としては、とても自然でリアルな実態として、素直に共感が持てました。