第124回文學界新人賞受賞作品  『逃げ水は街の血潮』 奥野紗世子(著) (『文學界』2019年5月号に掲載)

少しやさぐれた感のある、地下アイドルの赤裸々な告白調で綴られた物語。主人公のぶっ壊れている内面が、物語られる言葉、話者の文体によりリアルに立ち上がっていて、これは○だと思いました(ただ、壊れキャラの地下アイドルなのに、所々に哲学的だったり文学的な浅い事をもったいぶって言っている箇所があり、そこはどうなんだろうという疑問は無きにしもあらずでした)

ただ、物語中盤でいきなり[放火]→[逃亡]という展開は、驚きはありましたが、些か不用意なのではないか、行き当たりばったりでの思いつきではなかったのかな、という感が否めないという気がしてしまいました。

選考委員の長嶋有さんが触れられていたように、当初はワインボトルの設定すら用意されてなかったのだとしたら(後で加筆され、長嶋有さんは結果オーライと受け取ったようですが)、それで作品の流れが成立していると思っていた訳なのであり、だとすると構成や展開を客観視することができていなかったわけで、かなり問題なのでは……と思ってしまいました。物語が放火事件から転換点を迎えたのに、そこからがむしろ退屈だったことも気になりました。終盤にかけての失速ではなく、加速だったら、構成や展開が多少緩くても良かったのに、と残念です。