『宝くじ』 中山咲(著)  (『文藝』2019年春号に掲載)

コンビニの夜間勤務要員として働く23歳のシングルマザーというのが、小説の主人公です。

生きる、愛する、生活する、未来を夢見る、そういうありふれた人生そのものの中に潜む「暴力性」というものに視点をすえて、徹底的な細部の観察と描写から出来ている。読み始めのソフトな感じから、どんどん内容は濃くなり、やがて主人公が追い詰められている状況というものがリアルな手触りで伝わってくるようになるので、読めば読むほどに息苦しくなります。読み手であるこちらまで、袋小路に追い詰められていく感覚が、ちゃんとあるというか。

一方で、追い詰められているのに、主人公の女性には妙に振り切れた明るさがあり、その明るさの裏には、哀切が馴染みます。

悲しみの温度に必要以上の加工がなくて、そこが好感がもてるところでもあります。

また主人公の女性について、こういう女性がこの世界にはたくさんいるだろうな、というある種の既視感があり、ありながらも成立しているというところも、作品のすごいところで、これはかなり良質な、そして正統派な美しい作品であると、私は高く評価します。