『トリニティ、トリニティ、トリニティ』

小林エリカ(著)

(『すばる』4月号に掲載)

 

『マダム・キュリーと朝食を』で、第151回芥川賞候補になった小林エリカさんの小説。

 

2020年、東京オリンピック。聖火リレーで湧き返る日本の地で、トリニティという特殊な症状に取り憑かれた老人たちの異常な行動。

すぐ目前に迫った近未来の日本を舞台に、原発事故が、世界大戦が、広島・長崎の原子爆弾投下が、封じ込められていたこの世界の様々な不都合な記憶が、呼び覚まされていきます。

まるでホラー映画(もしくは漫画)のような不可解な冒頭からラストまで、小説はずっと面白かった。取り扱っている作品の内容と重みからして、面白いという表現は適切でないかもしれませんが、それでもやはり面白いと言わざるを得ない作品世界と言葉の魔力に脱帽です。

この小説には、詩のようなリズムがあり、絵のような造形があり、漫画のような奇抜さやユーモアがあり、神話があり、歴史があり(もしくは現在があり)、未来があり、得体の知れない美しさと残酷さがあります。そこには世界の不都合が(そう、物凄く不都合なことが!)戦時下の暗号のように羅列されていて、一つ一つキャンディの皮を剥くみたいに、白日のもとにそっと何気なく晒されています。

ここ数年で、これほど鮮烈な印象を受けた小説を、正直私は読まなかった気がします。