『最初の悪い男』

ミランダ・ジュライ(著)

岸本佐知子(訳)

(新潮社)

 

43歳独身女性シェリルの、平穏で妄想がちな生活の中に、20歳の肉感的な女性であるクリーが舞い込んできたことによって巻き起こる、おかしくてちょっと切ない物語です。

クリーは職場の上司の娘で、美人で抜群のスタイルなのに不潔で足が臭いという欠点があり、暴力的で生命力に溢れていて、野蛮なくらいに現実を生きている若者です。

非現実的な妄想世界に安住しているシェリルとは対照的で、この二人がシェリルのアパートで共同生活を始めたことから、物語は思わぬ方向にねじれながら転がっていきます。

展開の仕方が、ただ小説を面白くするために奇抜な方角へ舵を取ったというよりも、ある種独特な思考回路を持っているシェリルというひとりの人物の内面とリアルに対峙しているうちに、自然と物語がそのように転がってしまったという感じでした。シェリルの内面と対峙するということは、彼女が否応なしに巻き込まれてしまったとクリーとの生活と対峙するということであり、二人の女の二転三転する関係性の流れが展開そのものなのです。

また、9歳の時に出会い生き別れになってしまい、その後人生の中で何度も姿を変えて現れるようになるクベルコ・ボンディなる赤ん坊の存在が良かった。

赤ん坊は妄想という次元を超えて、もはやシェリルの人生も宇宙観も全て呑み込んで、魂の次元で彼女の思考回路を支えていて、それに触れるとなんとも言えない孤独と微笑ましさを覚えました。

それと、なによりも本作は文章そのものが面白い。私的には、かなりな頻度でツボにハマる笑いを巻き起こすフレーズがあって、実に楽しい読書でした。